ブルーベリーは比較的病害虫に強い果樹ですが、完全に無害というわけではありません。適切な対策を講じることで、健康な株を維持し、豊かな収穫を得ることができます。今回は、ブルーベリー栽培で遭遇する可能性のある主な害虫とその効果的な対策方法について詳しく解説します。
アブラムシ:小さいけれど侮れない害虫
アブラムシは、ブルーベリーの新芽や若葉に集中して発生する小さな害虫です。これらの害虫は植物の樹液を吸い取り、生育を阻害します。
被害の特徴
- 新芽や若葉が縮れたり変形したりする
- 葉の裏側に小さな緑色や黒色の虫が集団で付着している
- 葉や枝にべたつきがある(アブラムシの排泄物「甘露」による)
- 甘露によりすす病が発生することがある
効果的な対策
- 物理的除去: 軽度の発生であれば、水を強めに噴射して洗い流す方法が効果的です。
- 石鹸水スプレー: 台所用中性洗剤を薄めた溶液(水1リットルに対して洗剤2〜3滴)を葉の裏側にスプレーすると効果があります。
- 天敵の利用: テントウムシやクサカゲロウなどの天敵を庭に誘致することで、自然な駆除が期待できます。
- ニーム油: 有機栽培に適した天然の殺虫剤として、ニーム油のスプレーも効果的です。
- 化学的防除: 深刻な被害の場合は、ブルーベリーに使用可能な殺虫剤(オルトラン水和剤など)を使用します。ただし、使用時期や希釈率は必ず説明書に従ってください。
カミキリムシ:幹を食い荒らす厄介者
カミキリムシの幼虫は、ブルーベリーの幹や枝の内部に侵入して食害し、樹勢を著しく低下させることがあります。
被害の特徴
- 幹や枝に小さな穴が開いている
- 穴の周囲に木くずや排泄物が見られる
- 枝や幹が突然枯れ始める
- 樹全体の生育が弱まる
効果的な対策
- 早期発見と物理的除去: 穴を見つけたら、細い針金を挿入して幼虫を刺し殺すか、取り出します。
- 被害枝の剪定: 被害が確認された枝は、健全部分まで切り戻して処分します。
- 予防的な幹への塗布: 石灰硫黄合剤や樹幹害虫用の忌避剤を幹に塗布することで、産卵を防ぐことができます。
- 成虫の捕獲: 成虫の活動期(5〜8月頃)に、定期的に株元を見回り、成虫を手で捕まえて駆除します。
- 樹勢の維持: 健康な樹は抵抗力が高いので、適切な水やりと施肥で樹勢を維持することも大切です。
ハダニ:目に見えにくい微小な敵
ハダニは肉眼では確認しづらい微小な害虫で、葉の裏側に寄生して植物の汁液を吸います。特に乾燥した環境で発生しやすい害虫です。
被害の特徴
- 葉の表面に小さな白い斑点が現れる
- 葉全体が黄色や褐色に変色する
- 葉の裏側に微小な赤や黄色の点(ハダニ本体)や細かい糸が見られる
- 重症の場合、葉が落ちてしまう
効果的な対策
- 水の噴霧: 定期的に葉の裏側に水を噴霧し、湿度を保つことでハダニの発生を抑制できます。
- 天敵の導入: カブリダニなどの天敵を利用する生物的防除も効果的です。
- 石鹸水スプレー: 中性洗剤の薄め液を葉の裏側にスプレーすることで、ハダニを窒息させることができます。
- ホースでの水洗い: 強めの水流で葉の裏側を洗い流すことも有効な対策です。
- 化学的防除: 深刻な被害の場合は、ブルーベリーに使用可能なダニ剤を使用します。ただし、薬剤耐性が生じやすいため、同じ系統の薬剤の連用は避けましょう。
スズメバチ:果実を狙う空からの脅威
スズメバチは、熟したブルーベリーの果実を食害するだけでなく、収穫作業中の人間に危険をもたらすこともあります。
被害の特徴
- 熟した果実に穴が開いている
- 果実の周りにスズメバチが飛んでいる
- 収穫期に果実が急に減少する
効果的な対策
- 早朝の収穫: スズメバチの活動が活発になる前の早朝に収穫作業を行いましょう。
- 防鳥ネットの活用: 鳥害対策用のネットは、ある程度スズメバチの侵入も防ぎます。
- トラップの設置: 甘い液体(砂糖水やジュース)を入れたペットボトルトラップを設置して誘引捕獲します。
- 巣の早期発見と駆除: 周辺に巣がある場合は、専門業者に依頼して安全に駆除してもらいましょう。
- 収穫時の防護: 収穫作業時には、長袖・長ズボン・帽子・手袋を着用し、肌の露出を避けましょう。
その他の注意すべき害虫
1. チャノキイロアザミウマ
若葉や新芽、花蕾を加害し、葉の変形や花の落下を引き起こします。青色粘着トラップの設置や、被害初期の薬剤散布が効果的です。
2. コガネムシ類(幼虫)
土中で根を食害し、地上部の生育不良を引き起こします。植え付け前の土壌消毒や、成虫発生期の薬剤散布が対策となります。
3. ケムシ類
葉を食害します。少数であれば手で取り除くか、BT剤(生物農薬)の散布が効果的です。
4. カイガラムシ
枝や幹に付着して樹液を吸い、樹勢を弱めます。冬季の休眠油剤散布や、発生初期の薬剤散布が効果的です。
総合的な害虫管理(IPM)のすすめ
ブルーベリーの害虫対策では、単一の方法に頼るのではなく、複数のアプローチを組み合わせた「総合的病害虫管理(IPM: Integrated Pest Management)」が効果的です。
IPMの基本ステップ
- 定期的な観察: 週に1〜2回、株全体をよく観察して早期発見に努めましょう。
- 予防的対策: 健全な樹勢の維持、適切な剪定による風通しの確保、清潔な園地管理を心がけます。
- 物理的防除: 害虫の手取り、水による洗い流し、粘着トラップの設置などを行います。
- 生物的防除: 天敵の保護・導入や、微生物農薬の活用を検討します。
- 化学的防除: 上記の対策で効果が不十分な場合のみ、適切な農薬を必要最小限使用します。
有機栽培での害虫対策
化学農薬を使わない有機栽培でも、効果的な害虫対策は可能です。
おすすめの有機的対策
- 多様性のある庭づくり: 様々な花や植物を植えることで、天敵となる昆虫を誘致します。
- コンパニオンプランツの活用: ニラ、ネギ、マリーゴールドなど、害虫を忌避する効果のある植物を近くに植えます。
- 自家製スプレーの活用: ニンニク、唐辛子、ニームオイルなどを使った自家製忌避剤を作成・使用します。
- マルチングの活用: おがくずや松葉のマルチングは、一部の土壌害虫の発生を抑制する効果があります。
- 適切な栽培環境の維持: 適切な間隔での植え付け、定期的な剪定による風通しの確保、過湿の防止などが重要です。
季節別の害虫対策カレンダー
ブルーベリーの害虫対策は、季節ごとに重点を置くべきポイントが異なります。
春(3〜5月)
- 新芽や若葉を狙うアブラムシの監視と早期対策
- 開花期のチャノキイロアザミウマ対策
- 越冬した害虫の成虫発生に注意
夏(6〜8月)
- ハダニの発生に注意(特に乾燥時)
- カミキリムシ成虫の活動期、産卵防止対策
- 果実を狙うスズメバチ対策
- 収穫期の防鳥ネット設置
秋(9〜11月)
- 落葉後の園地清掃(越冬害虫の温床除去)
- カイガラムシの確認と対策
- 翌年に向けた土壌害虫対策
冬(12〜2月)
- 休眠期の樹幹害虫対策(石灰硫黄合剤など)
- 剪定時の害虫被害枝の除去と適切な処分
- 翌春の害虫発生に備えた準備
まとめ:予防と早期発見が鍵
ブルーベリー栽培における害虫対策の成功は、予防と早期発見にかかっています。定期的な観察を習慣化し、問題が小さいうちに対処することが重要です。また、化学農薬に頼りすぎず、様々な対策方法を組み合わせることで、環境にも優しい持続可能な栽培が可能となります。
健全なブルーベリーの株は、ある程度の害虫被害に耐える力を持っています。適切な水やり、施肥、剪定などの基本的な管理を徹底することで、株の抵抗力を高め、害虫被害を最小限に抑えることができるでしょう。
次回は「主な病気とその対策」について詳しく解説します。ブルーベリーの健康を守り、豊かな収穫を得るための知識を深めていきましょう。
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