ブルーベリーの栽培において、多くの初心者が見落としがちなのが「摘果」という作業です。摘果とは、実の数を適切に調整するために一部の果実を意図的に取り除く作業のこと。この一見もったいないように思える作業が、実は収穫の質と量を大きく左右する重要なポイントなのです。今回は、ブルーベリー栽培における摘果の必要性とその具体的な方法について解説します。
なぜブルーベリーに摘果が必要なのか
ブルーベリーの木は、条件が良ければ驚くほど多くの花をつけ、果実を形成します。しかし、すべての果実を同時に育てようとすると、次のような問題が生じます:
- 果実の小粒化:栄養が分散してしまい、一つひとつの実が小さくなります。
- 糖度の低下:果実に十分な栄養が行き渡らず、甘みが減少します。
- 樹への負担増加:過剰な結実は樹に大きな負担をかけ、樹勢の低下を招きます。
- 翌年の花芽形成の抑制:今年たくさん実をつけると、翌年の花芽が減少する「隔年結果」を引き起こすことがあります。
- 病害虫の温床:果実が密集すると風通しが悪くなり、病気や害虫の発生リスクが高まります。
これらの問題を防ぎ、質の高い果実を安定して収穫するために、摘果は欠かせない作業なのです。
摘果のタイミング
ブルーベリーの摘果は主に2つの時期に行います:
1. 開花期の摘花(花の段階での摘果)
若木や樹勢の弱い木では、開花期に花の一部を取り除くことで樹への負担を軽減します。特に植え付けから1〜2年の若木では、実をつけさせること自体を控えるために、花をすべて摘み取ることも重要です。これは「第3章:植付けの基本」の「3-5-2. 花芽の摘み取り(初年度)」でも触れた内容ですが、若木の健全な成長のために非常に重要な作業です。
2. 結実初期の摘果(小さな実の段階での摘果)
開花後、受粉が終わり小さな実が形成され始めた段階(通常5月中旬〜下旬頃)が、本格的な摘果の適期です。この時期は:
- 実の大きさが3〜5mm程度になった頃
- 実が青みを帯び始めた時期
- 花が完全に落ちて、確実に結実したことが確認できる時期
を目安に行います。あまり早すぎると受粉不良で自然に落ちる実と区別がつきにくく、遅すぎると樹の栄養が無駄に消費されてしまいます。
品種タイプ別の摘果の必要性
ブルーベリーの主要3タイプによって、摘果の必要性は若干異なります:
ハイブッシュ系
一般に結実過多になりやすく、特にブルークロップなどの多収性品種では積極的な摘果が必要です。放置すると小粒化が顕著になります。
ラビットアイ系
ティフブルーなどのラビットアイ系は、比較的樹勢が強く多くの実をつける能力がありますが、実の大きさを確保するためには適度な摘果が望ましいです。
ローブッシュ系
矮性で結実数も比較的少ないため、他のタイプに比べて摘果の必要性は低いですが、樹勢維持のためには若木のうちは摘果を行うと良いでしょう。
具体的な摘果の方法
基本的な摘果の手順
- 準備物:清潔なハサミまたは爪(素手で行う場合)、小さなバケツや袋(摘み取った実を入れるもの)
- 作業時間帯:朝の涼しい時間帯に行うのが理想的です
- 手順:
- 樹全体を観察し、果実の付き具合を確認する
- 一つの果房(果実の集まり)に対して、理想的には5〜8個程度の実を残す
- 特に小さい実、形の悪い実、傷のある実から優先的に摘み取る
- 果房の先端(花房の付け根から最も遠い部分)の実は遅れて熟すことが多いので、積極的に摘果する
樹齢別の摘果の目安
- 若木(1〜3年目):樹の成長を優先するため、厳しく摘果し、場合によっては全ての実を摘み取ります。
- 若い成木(4〜5年目):樹の大きさに応じて実の数を調整し、樹全体で100〜200個程度に制限します。
- 成木(6年目以降):樹の状態を見ながら調整しますが、一般的に枝の長さ10cm当たり5〜8個程度の実を目安にします。
摘果の強度の判断基準
摘果の強度(どれだけ実を残すか)は、以下の要素を考慮して判断します:
- 樹の大きさと樹勢:樹勢が弱い場合は強めに摘果します
- 品種の特性:小粒になりやすい品種は強めに摘果します
- 前年の結実状況:前年に多く実をつけた木は、隔年結果を防ぐために強めに摘果します
- 栽培環境:水や肥料の条件が十分でない場合は強めに摘果します
摘果のコツと注意点
重点的に摘果すべき実
- 小さい実や発育の遅れている実
- 奇形の実や傷のある実
- 果房の先端部分の実(最後に熟すため)
- 密集している部分の実(特に果房の中心部)
- 日当たりの悪い内側の枝についた実
摘果時の注意点
- 健全な実を傷つけない:摘果する際に残す実を傷つけないよう注意しましょう
- 樹を揺らさない:作業中に樹を激しく揺らすと、残したい実まで落ちてしまうことがあります
- 病害虫の確認:摘果作業と同時に病害虫のチェックも行いましょう
- 摘果した実の処理:摘み取った実はそのまま放置せず、園外に持ち出して処分しましょう(病害虫の温床になる可能性があります)
摘果を省略できるケース
以下のような場合は、摘果の必要性が低くなります:
- 自然に実の数が少ない場合:受粉不良や気象条件により、自然に実の数が少ない年
- 特に大粒の実を求めない場合:ジャム加工用など、実の大きさよりも総収量を重視する場合
- 樹勢が非常に強く、栄養状態が十分な場合:十分な肥培管理ができている成木
ただし、樹の健全な成長と翌年以降の結実を考えると、多少なりとも調整を行うことをお勧めします。
摘果と収量・品質のバランス
摘果は収量と品質のバランスを取る作業です。強く摘果すれば大粒で甘い実が期待できますが、総収量は減少します。逆に摘果を控えめにすれば収量は増えますが、一つひとつの実の大きさや甘さは減少します。
家庭栽培では一般的に「量より質」を重視し、大粒で甘い実を収穫することを目指すことをお勧めします。特に鉢植えの場合は、樹への負担を考慮して積極的に摘果を行いましょう。
まとめ:摘果で変わるブルーベリーの味と収穫量
摘果は一見すると収穫量を減らす作業のように思えますが、実際には:
- 一粒一粒の実が大きく、甘くなる
- 樹の健全な成長が促進される
- 翌年以降も安定した収穫が期待できる
- 病害虫の発生リスクが低減する
などのメリットがあります。特に家庭栽培では、数よりも質を重視した栽培がおすすめです。
摘果は手間のかかる作業ですが、この作業を丁寧に行うことで、市販品とは比べものにならない、甘くて大粒のブルーベリーを収穫する喜びを味わうことができます。次回は「鳥害対策と防鳥ネット」について解説し、せっかく育てた実を鳥から守る方法をご紹介します。
この記事はブルーベリー栽培シリーズの「第6章:花と果実の管理」の一部です。前回の「果実の肥大期の管理」に続く内容となっています。摘果の基本を理解したうえで、次回の「鳥害対策と防鳥ネット」も併せてご覧いただくことで、収穫までの一連の流れをマスターしましょう。
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