ぶどう栽培を始めると、専門書や栽培ガイドで多くの専門用語に出会います。これらの用語を理解することは、栽培技術を習得する上で非常に重要です。この記事では、ぶどう栽培に関する主要な専門用語を解説し、これから学ぶ各章の内容をより深く理解するための基礎知識を提供します。
樹体と生育に関する用語
新梢(しんしょう):春に芽から伸びる新しい枝のこと。当年に伸びた緑色の柔らかい枝で、葉や花穂、果実をつける。
旧梢(きゅうしょう):前年以前に伸びた、木質化して茶色になった枝のこと。
結果母枝(けっかぼし):果実を実らせる新梢を発生させる元となる枝。冬季剪定で残す枝。
結果枝(けっかえだ):実際に果実をつける新梢のこと。
徒長枝(とちょうし):栄養生長が過剰で、異常に長く伸びる枝。果実の着生が少なく、樹勢が強すぎる場合に発生しやすい。
副梢(ふくしょう):新梢の葉腋(ようえき)から発生する二次的な枝。夏季に発生し、栄養を消費するため、適切な管理が必要。
花穂(かすい):ぶどうの花が集まった房状の花序。開花前の状態を指す。
果房(かぼう):ぶどうの実がなった房全体を指す。
果粒(かりゅう):ぶどうの一粒一粒の実を指す。
果梗(かこう):果粒を支える茎の部分。
果穂軸(かすいじく):果房の中心となる軸の部分。
芽(め):新梢を発生させる芽。冬季に休眠している状態。
花芽(はなめ):花を咲かせる芽。ぶどうでは混合芽(葉と花の両方を持つ芽)となる。
葉芽(はめ):葉だけを発生させる芽。
潜芽(せんが):通常は休眠状態で発芽しない予備の芽。強剪定や樹勢の衰えにより発芽することがある。
休眠芽(きゅうみんが):冬季に休眠状態にある芽。
発芽(はつが):休眠芽が成長を始め、芽が開き始める現象。
萌芽(ほうが):芽が開いて新梢が伸び始める状態。
開花(かいか):花が咲くこと。ぶどうの場合、花冠が脱落して花粉が飛散する状態。
結実(けつじつ):花が受粉して果実になること。
着色(ちゃくしょく):果実が色づき始めること。品種によって着色の時期や色合いが異なる。
成熟(せいじゅく):果実が完熟して収穫適期を迎えること。
樹勢(じゅせい):樹の生育の勢い。強すぎると徒長枝が多く発生し、弱すぎると果実の生育が悪くなる。
休眠(きゅうみん):冬季に樹の生育が停止する状態。一定期間の低温に遭遇することで打破される。
栽培管理に関する用語
剪定(せんてい):樹形を整え、結果母枝を確保するために枝を切ること。
短梢剪定(たんしょうせんてい):結果母枝を短く(2〜3芽程度)残す剪定方法。欧州系品種に適している。
長梢剪定(ちょうしょうせんてい):結果母枝を長く(8芽以上)残す剪定方法。アメリカ系品種に適している。
冬季剪定(とうきせんてい):休眠期(落葉後〜発芽前)に行う主要な剪定。
夏季剪定(かきせんてい):生育期間中に行う剪定。主に副梢の管理や日当たり改善のために行う。
芽かき(めかき):不要な芽や弱い芽を取り除く作業。樹勢のコントロールや風通しの改善に効果がある。
摘心(てきしん):新梢の先端部を摘み取る作業。樹勢のコントロールや果実への栄養集中に効果がある。
摘房(てきぼう):花穂や若い果房の一部を取り除く作業。残った果房の品質向上に効果がある。
摘粒(てきりゅう):果房内の一部の果粒を取り除く作業。房の形を整え、残った果粒の肥大を促進する。
摘葉(てきよう):一部の葉を取り除く作業。果実への日当たりを改善し、着色を促進する効果がある。
誘引(ゆういん):枝を支柱や棚線に誘導して固定する作業。樹形の形成や日当たりの改善に効果がある。
棚仕立て(たなじたて):水平に張った棚線に枝を誘引して育てる仕立て方。日本の一般的な栽培方法。
垣根仕立て(かきねじたて):縦方向に張った線に沿って枝を誘引する仕立て方。欧米で一般的な方法。
一文字仕立て(いちもんじじたて):主幹から左右に主枝を伸ばし、T字型に仕立てる方法。
平行整枝(へいこうせいし):主枝から平行に結果母枝を配置する整枝法。
環状剥皮(かんじょうはくひ):樹皮を環状に剥ぎ取り、一時的に養分の下降を阻害する技術。着色や糖度向上に効果がある。
ジベレリン処理(じべれりんしょり):植物ホルモンの一種であるジベレリンを使用して、種なしぶどうの生産や果粒肥大を促進する処理。
房づくり(ふさづくり):摘粒などを行い、美しい房の形に整える作業。
雨よけ栽培(あまよけさいばい):雨を遮るためのビニールなどで覆う栽培方法。病害の発生を抑制する効果がある。
根域制限栽培(こんいきせいげんさいばい):根の伸長範囲を制限して樹勢をコントロールする栽培方法。果実の品質向上に効果がある。
植物の構造と繁殖に関する用語
台木(だいぎ):接ぎ木の際に根となる部分。耐病性や環境適応性を持つ品種が使用される。
穂木(ほぎ):接ぎ木の際に上部となり、果実を実らせる部分。
接ぎ木(つぎき):異なる個体の一部を組み合わせて一つの植物体にする繁殖方法。
芽接ぎ(めつぎ):芽一つを含む樹皮部分を台木に接ぐ方法。
枝接ぎ(えだつぎ):枝を台木に接ぐ方法。
取り木(とりき):枝の一部に土をかぶせて発根させた後、切り離して独立した株にする繁殖方法。
挿し木(さしき):枝の一部を切り取って土に挿し、発根させる繁殖方法。
自家結実性(じかけつじつせい):同一株の花粉で受粉・結実する性質。この性質を持つ品種は単独でも結実する。
単為結果性(たんいけっかせい):受粉なしで果実が発達する性質。一部の品種で見られる。
花冠(かかん):ぶどうの花びらが合着した部分。開花時に脱落する。
葯(やく):花粉を生産する器官。
柱頭(ちゅうとう):花粉を受け取る器官。
子房(しぼう):果実になる部分。
病害虫と対策に関する用語
べと病(べとびょう):葉の裏に白いカビが発生する病気。多湿条件で発生しやすい。
うどんこ病(うどんこびょう):葉や果実に白い粉状のカビが発生する病気。
晩腐病(ばんぷびょう):果実が成熟期に腐敗する病気。雨が多い時期に発生しやすい。
黒とう病(くろとうびょう):葉や果実に黒い斑点が発生する病気。
灰色かび病(はいいろかびびょう):灰色のカビが発生し、果実や枝を腐らせる病気。
褐斑病(かっぱんびょう):葉に褐色の斑点が発生する病気。
ハマキムシ(はまきむし):葉を巻いて中に潜む害虫。葉や果実を食害する。
カミキリムシ(かみきりむし):幹や枝に穴をあけて内部を食害する害虫。
クワコナカイガラムシ(くわこなかいがらむし):枝や葉に付着して樹液を吸う害虫。
スズメバチ(すずめばち):成熟した果実を食害する害虫。人への危険性もある。
薬剤耐性(やくざいたいせい):病原菌や害虫が薬剤に対して抵抗性を持つようになる現象。
予防散布(よぼうさんぷ):病害虫の発生前に予防的に薬剤を散布すること。
治療散布(ちりょうさんぷ):病害虫の発生後に治療的に薬剤を散布すること。
果実の特性と品質に関する用語
糖度(とうど):果実の甘さを示す指標。ブリックス度(Brix)で表される。
酸度(さんど):果実の酸味を示す指標。
渋味(しぶみ):タンニンによる渋い味。一部の品種や未熟な果実に含まれる。
果皮(かひ):果実の外側の皮の部分。
果肉(かにく):果実の食べられる部分。
種子(しゅし):果実の中の種。
裂果(れっか):果皮が裂ける現象。雨が多い時期や急激な肥大時に発生しやすい。
日焼け(ひやけ):強い日差しにより果実が損傷する現象。
着色不良(ちゃくしょくふりょう):果実の色づきが不十分な状態。
房枯れ(ふさがれ):果房の一部が枯れる現象。
房しり(ふさしり):果房の先端部分。通常は小さな果粒が集まっている。
房肩(ふさかた):果房の上部で、主軸から分岐している部分。
房型(ふさがた):果房全体の形状。円錐形や円筒形などがある。
栽培環境と資材に関する用語
棚線(たなせん):ぶどう棚に張る線。主に鉄線やワイヤーが使用される。
支柱(しちゅう):樹や枝を支えるための柱。
マルチング(まるちんぐ):土壌表面を資材で覆うこと。雑草抑制や土壌環境の安定に効果がある。
元肥(もとごえ):植付け時や休眠期に施す基本的な肥料。
追肥(おいごえ):生育期間中に追加で施す肥料。
葉面散布(ようめんさんぷ):葉から吸収させるために液体肥料を散布すること。
土壌pH(どじょうぴーえいち):土壌の酸性・アルカリ性を示す指標。ぶどうは弱酸性を好む。
排水性(はいすいせい):土壌から水が排出される性質。ぶどうは排水の良い土壌を好む。
保水性(ほすいせい):土壌が水分を保持する性質。
透水性(とうすいせい):土壌に水が浸透する性質。
有機質肥料(ゆうきしつひりょう):動植物由来の肥料。堆肥や魚粉など。
化学肥料(かがくひりょう):化学的に合成された肥料。速効性がある。
緩効性肥料(かんこうせいひりょう):ゆっくりと効果が現れる肥料。
品種と分類に関する用語
欧州系ぶどう(おうしゅうけいぶどう):ヨーロッパ原産のぶどう(Vitis vinifera)。皮離れが良く、香りが高い特徴がある。
米国系ぶどう(べいこくけいぶどう):北米原産のぶどう(Vitis labrusca)。フォクシー香と呼ばれる独特の香りがある。
交雑種(こうざつしゅ):異なる種や品種を交配して作られた品種。
種なしぶどう(たねなしぶどう):種子が発達しない、または非常に小さい品種。
生食用品種(せいしょくようひんしゅ):主に生で食べることを目的とした品種。
醸造用品種(じょうぞうようひんしゅ):主にワイン製造を目的とした品種。
自家結実性品種(じかけつじつせいひんしゅ):単独でも結実する品種。
他家受粉品種(たかじゅふんひんしゅ):他の品種の花粉が必要な品種。
まとめ
この用語集では、ぶどう栽培に関する基本的な専門用語を解説しました。これらの用語を理解することで、今後の栽培ガイドや専門書の内容をより深く理解できるようになるでしょう。ぶどう栽培は奥深い世界ですが、一つ一つの用語の意味を知ることで、栽培技術の習得がより円滑になります。
次回からは、「ぶどうの基礎知識」から始まる各章で、より具体的な栽培方法や技術について詳しく解説していきます。この用語集を参考にしながら、ぶどう栽培の知識を深めていきましょう。
注:この用語集は基本的な用語を中心にまとめていますが、地域や栽培方法によって異なる用語や表現が使われることもあります。また、栽培を進める中で新たな用語に出会った際は、随時追加していくことをおすすめします。
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