ぶどう栽培において、「結果枝」と「徒長枝」を正確に見分けることは、豊かな収穫を得るための最も重要なスキルの一つです。適切な剪定を行うためには、どの枝が実をつける可能性があるのか、どの枝が単に樹の栄養を消費するだけなのかを見極める必要があります。今回は、初心者の方でも理解できるよう、結果枝と徒長枝の特徴と見分け方について詳しく解説します。
結果枝とは何か?
結果枝とは、その名の通り「果実を結ぶ枝」のことです。ぶどうの場合、基本的に前年に生長した枝(1年枝)から発生した新梢に花穂が形成され、果実へと成長します。つまり、適切に管理された1年枝から出る新梢が結果枝となる可能性を持っています。
結果枝の主な特徴:
- 太さ: 鉛筆程度の適度な太さ(約7〜12mm)
- 色: 成熟した茶色(休眠期)
- 節間: 適度な間隔(約5〜8cm)
- 芽の状態: ふっくらとした複芽(主芽と副芽を含む)
- 位置: 日当たりの良い場所に位置する枝
- 角度: 水平から45度程度の角度で伸びている
結果枝から出る新梢には、通常、基部から3〜5節目あたりに花穂が形成されます。この花穂が後に果実の房へと発達します。
徒長枝とは何か?
徒長枝は、樹勢が強すぎる場合などに発生する、極端に勢いよく伸びる枝のことです。「徒」という字が示す通り、「むだに」「いたずらに」長く伸びる枝という意味合いがあります。これらの枝は栄養成長に偏り、生殖成長(花や実をつける)が抑制される傾向があります。
徒長枝の主な特徴:
- 太さ: 極端に太い(15mm以上)または極端に細い(5mm以下)
- 長さ: 非常に長く伸びる
- 節間: 長い(10cm以上)
- 色: 緑色が強く残る場合がある
- 角度: 垂直に近い急な角度で上方へ伸びる
- 芽の状態: 小さく未発達な芽が多い
- 発生位置: 主幹の上部や切り戻した枝の先端付近に多い
徒長枝は栄養を多く消費するわりに結実しにくく、樹全体のバランスを崩す原因となります。
見分け方のポイント
1. 太さと長さをチェック
結果枝は鉛筆程度の適度な太さを持ち、極端に長くありません。一方、徒長枝は異常に太く長いか、または極端に細く弱々しいかのどちらかの特徴を持ちます。
2. 節間の距離を確認
節と節の間隔(節間)は重要な判断材料です。結果枝の節間は5〜8cm程度で適度な間隔があります。徒長枝は10cm以上の長い節間を持つことが多く、これは旺盛な栄養成長の証拠です。
3. 芽の状態を観察
休眠期(冬)に枝を観察すると、結果枝には丸みを帯びたふっくらとした芽(花芽を含む複芽)が見られます。徒長枝の芽は小さく尖っていることが多く、主に葉芽です。
4. 枝の角度と位置
結果枝は水平から45度程度の角度で伸びていることが多く、日当たりの良い位置にあります。徒長枝は垂直に近い角度で上方へ伸び、特に樹の上部や主幹の近くから発生することが多いです。
5. 枝の色と成熟度
冬季、十分に成熟した結果枝は茶色になります。徒長枝は成熟が不十分で、緑色が残っていることがあります。
品種による違い
ぶどうの品種によって、結果枝の特性には若干の違いがあります。
欧州系品種(ヴィニフェラ種):
- 結果枝は比較的細め(7〜9mm程度)
- 節間はやや短い傾向
- 芽の形状は小さめで尖っていることが多い
アメリカ系品種(ラブルスカ種):
- 結果枝はやや太め(9〜12mm程度)
- 節間は欧州系よりやや長い
- 芽は丸みを帯びている
交雑種(巨峰、シャインマスカットなど):
- 親品種の特性を受け継ぎ、中間的な特徴を示す
- 巨峰の場合、適度な結果枝の太さは8〜11mm程度
季節ごとの見分け方
冬季(剪定時期)
冬の剪定時期は結果枝と徒長枝を見分ける最も重要な時期です。この時期の判断が翌年の収穫に直結します。
チェックポイント:
- 枝の太さと色
- 芽の大きさと形状
- 節間の距離
- 枝の位置と角度
春季(発芽後)
発芽後は、新梢の生育状態から結果枝と徒長枝の判別ができます。
チェックポイント:
- 新梢の伸長速度(徒長枝からの新梢は極端に早く伸びる)
- 花穂の有無(結果枝からの新梢には花穂が形成される)
- 新梢の太さと色(徒長枝からの新梢は太く、濃い緑色)
夏季(生育期)
生育期には、新梢の特徴から判別します。
チェックポイント:
- 新梢の伸長状態(徒長的な新梢は節間が長く、急速に伸びる)
- 葉の大きさ(徒長的な新梢の葉は大きい傾向)
- 副梢(わき芽)の発生状況(徒長的な新梢は副梢が多く発生)
剪定時の対応
結果枝と徒長枝を見分けたら、それぞれに適した剪定を行います。
結果枝の剪定:
- 短梢剪定の場合:2〜3芽程度(品種による)を残して剪定
- 長梢剪定の場合:8〜12芽程度を残して剪定
- 結果枝は翌年の収穫の基盤となるため、適切な数を残す
徒長枝の対応:
- 基本的には根元から切除
- 樹形を整える必要がある場合は、適度な強さの枝に作り替えるために強く切り戻す
- 樹勢が弱い場合は、一部の徒長枝を更新枝として利用することも検討
徒長枝が発生する原因と対策
徒長枝の発生には様々な原因があります。対策を講じることで、適切な結果枝の形成を促進できます。
主な原因と対策:
- 過剰な窒素肥料
- 対策:窒素肥料を控えめにし、リン酸やカリウムのバランスを重視
- 強すぎる剪定
- 対策:樹勢に合わせた適度な剪定を心がける
- 日照不足
- 対策:適切な間隔での植栽と、日当たりを確保するための夏季剪定
- 水分過多
- 対策:排水性の改善と適切な水管理
- 樹勢の不均衡
- 対策:環状剥皮や根域制限など、樹勢のコントロール技術の活用
結果枝を増やすためのテクニック
良質な結果枝を増やすことは、安定した収穫につながります。
結果枝を増やすテクニック:
- 適切な夏季剪定
- 新梢の先端を適度に摘心し、充実した結果枝の形成を促す
- 適度な着果管理
- 過剰な着果は枝の充実度を下げるため、適正な着果量を守る
- バランスの良い施肥
- 窒素・リン酸・カリのバランスが取れた肥料を適期に施す
- 日照の確保
- 枝葉が混み合わないよう整理し、十分な日光を当てる
- 誘引の工夫
- 枝を水平に近い角度に誘引すると、結果枝の形成が促進される
まとめ
ぶどう栽培において、結果枝と徒長枝を正確に見分ける能力は、成功への大きな鍵となります。適度な太さ、節間、芽の状態、角度などの特徴を総合的に判断し、適切な剪定を行うことで、豊かな収穫を得ることができます。
初心者の方は、最初は判断が難しいかもしれませんが、経験を積むにつれて目が養われていきます。迷ったときは、極端な特徴を持つ枝(非常に太い、節間が極端に長いなど)を徒長枝と判断し、適度なバランスの枝を結果枝として残すとよいでしょう。
次回は「初心者向け簡単剪定ガイド」で、実際の剪定方法について詳しく解説します。ぶどうの樹形や品種に合わせた剪定のコツをお伝えしますので、ぜひお楽しみに!
この記事は「ぶどうの育て方」シリーズの一部です。ぶどう栽培の基礎から応用まで、順を追って解説していきます。ご質問やご意見がありましたら、コメント欄でお気軽にお寄せください。
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